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第3回 日本生殖医療心理カウンセリング学会 ( JAPCRM ) 学術集会 開催報告

生殖医療や不妊における専門的心理援助の啓蒙と普及のため3年前に設立した本学会 ( 当初は研究会 ) も、回を重ねて2006年3月26日に3回目の学術集会を開催するまでに発展しました。セント・ルカ産婦人科院長である宇津宮隆史先生を大会長とした今回の参加者は約260名と昨年をさらに上回り ( 昨年の参加者数約200名 ) 、不妊の方への心理的援助に対する関心がいよいよ本格的になってきたことを感じさせます。


今回の学術集会のテーマとして宇津宮大会長が掲げたのは、「生殖医療におけるチームワークとコラボレーション」ということでした。大会長挨拶でも、不妊診療における各専門家の役割分担と連携の重要性に触れられ、チームの中におけるカウンセラーの役割への期待を話されました。全体として質の高い生殖医療を提供するために、カウンセラーには何ができ、何をすべきなのか考えなければいけないと改めて感じました。


毎年プログラムに入れている教育セミナーですが、今年は生殖医療についてはレディースクリニック京野院長の京野廣一先生が講演されました。生殖補助医療 ( ART ) の現状から、現在研究が進められており将来臨床応用される可能性のある最先端の技術までをわかりやすく解説されました。また生殖医療を取り巻く社会的背景と医療技術との関係にも言及され、聴衆の視野を広げてくださいました。


もうひとつの教育セミナーは筆者 ( 平山 ) が担当しました。毎年基本的な内容をコンパクトにまとめるのに苦労するのですが、今年は「マクロ⇔ミクロなシステムの中で不妊の意味を捉える」というまとめ方をしてみました。広い社会全体から個人の内界までそれぞれの関係性の中で不妊体験者を理解する視点について説明させていただきました。


今年の特別講演は平木典子先生 ( 跡見学園女子大学教授 ) にお願いいたしました。平木先生はわが国における家族療法、家族心理学のパイオニアであり、われわれ臨床心理士の仲間から尊敬を集める方です。また「アサーション・トレーニング」の第一人者としても有名で、現在は日本家族心理学会の会長も務めておられます。先生が特にすばらしいのは、信奉する理論への家元制度的なこだわりに陥りがちな日本の心理臨床の世界において、狭い流派にとらわれず「統合」という視点でクライエントの役に立つことを第一に考え、今も現役で臨床実践を重ねておられることではないかと思います。今回の講演では、家族心理学の視点から日本の不妊カップルについてお話いただきました。現代の日本のカップルは結婚や親になることの選択が自由になったがゆえに却って「選択する力=心理的自立」が試されていると述べられ、選択できる人生の中での「予測していなかった」不妊という危機を経験するカップルを理解するさまざまな概念についても説明されました。また、医療の中でカウンセラーが有効な援助を行うために、認知行動療法的な介入やグループアプローチ、短期的介入の有効性について示唆してくださいました。日々現場で有効な援助とは何かについて悩んでいる私たち生殖心理カウンセラーにとって非常に有益な講演でした。


前回から始まったポスターセッションでは、18題の演題が発表されました。今年は会場の後ろにポスターを掲示し、口頭での発表を取り入れたため参加者も多かったように思います。スピーカー等の不手際で発表が聞き取りにくい場面があったことは反省点としたいと思います。ポスターは審査委員会により審査が行われ、2題の優秀演題が選出されました。発表者には学術集会の最後に、久保春海理事長より表彰状および記念品が授与されました。


ランチョンセミナーでは、本学会理事長でもある久保春海先生が「ARTを取り巻く社会的環境におけるカウンセリングの役割」と題して講演されました。いつもながら先生のお話は細やかな準備と配慮に満ちており、不妊医療におけるカウンセリングの実際と今後のあり方について聴衆の理解が深まったと思います。また、現状を踏まえたお話から、先生の提唱される「不妊の予防医学」への展望も感じられ、この点に関してもわれわれ生殖心理カウンセラーが果たすべき役割は大きいことを再認識いたしました。


午後の教育講演として、母性研究や子育て支援に関して幅広い活動をしておられ、本学会の理事でもある大日向雅美先生(恵泉女学園大学大学院教授)からは、不妊をめぐる状況の変化を不妊の人とかかわる際の姿勢についてご講演いただきました。大日向先生には昨年もご講演いただいたのですが、不妊に苦しむ方への優しいまなざしと、リサーチに裏づけされた深い共感は聴衆の心を打ち、今年もお話いただきたいとお願いして、快諾されたため実現したご講演です。お話の中で、不妊であることについて外圧は減ってきたものの、自責感などの新たな「内なる苦悩」が不妊体験者を苦しめているということ、特に実母との関係に苦しむ女性が増えていることなどについて10年以上の援助経験を交えお話くださいました。「苦悩する人々のやさしさ」に寄り添う大日向先生の態度は私たちカウンセラーが学ばなければならないものだと思います。


パネルディスカッション「自己決定におけるコーディネーティングからカウンセリングへ」では、医師、看護師、心理士がそれぞれの立場からその専門性を生かした患者さんへの心理的援助のあり方を考えることを企画しました。アイブイエフ詠田クリニック院長の詠田由美先生は、安易に耳障りのよい「カウンセリング」という言葉に逃げずに、必要十分なインフォームド・コンセントを行うことの重要性を熱く語られました。本当の意味で説明し同意を得るということとはどういうことなのか、先生の哲学を感じる講演でした。看護師の立場からは日本看護協会神戸研修センターの柴田文子先生が話されました。柴田先生は不妊看護のエキスパートである認定看護師 ( 不妊分野 ) の養成に携わっておられるご経験から、インフォームド・チョイスのプロセスにおける看護師の役割について説明されました。単に情報が与えられるだけで「後はご夫婦で考えてください」と投げ出され、途方にくれる患者さんが多い中、情報を整理し、自分たちの治療を自分で決める ( 自己決定 ) のあり方や、看護師ならではの専門的な援助とはどのようなものかについて、看護師の参加者が多いこの学術集会でも参考になったのではないでしょうか。セント・ルカ産婦人科の上野桂子先生は、心理士の特徴として、患者さんを「治療を受けている不妊患者」というだけでなく「不妊を生きるその人全体」を援助しようとする視点を提供してくれました。その人の話にじっくり耳を傾け、その人がその人らしい人生を選んでいくプロセスに寄り添うことの重要性がよく理解できました。3名のご講演の後、会場から不妊患者支援団体Fine ( 現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会 ) の会員であるIさんからコメントをいただきました。当事者ならでの視点はわれわれに新たな気づきをもたらしてくれました。しかしながら、コーディネーターの不手際があり、十分な討論の時間が持てず、後半が駆け足になってしまいました。パネリストおよび会場の皆様にお詫び申し上げます。


また、学術集会の最後に、昨年度1年かけて開催した日本初の生殖・不妊の問題に関わる心理カウンセラーの養成講座を修了し、認定試験に合格した「生殖心理カウンセラー」一期生10名の認定証授与式も行われました。わが国における生殖の問題の専門性を持った心理カウンセラーの誕生がようやく誕生したことになり、今後の活躍が期待されます。
最後に久保理事長による閉会の辞と次期会長である京野先生の挨拶があり学術集会は終了しました。


これまで必要といわれながら実現しなかった生殖医学と心理学をつなぐ学会として、本学会をこれからも発展させていく所存ですので、医療関係者の皆様、そして患者の皆様のご支援、ご協力を今後とも賜りたく存じます。
なお、次回の学術集会は2007年1月21日 ( 日 ) 、東京で開催される予定です。皆様のご参加を心よりお願い申し上げます。

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